恐怖のホワイトアルバム

あれは私が高校3年の時だった。
私は当時、東大阪の布施というトコロでよく一人で遊んでいた。
この布施という言葉を聞いただけでピンときた人はなかなかの犯罪博士だ。
そう。この地域は全国引ったくりナンバー1という日本に存在するスラム街の一つなのである。
今では道も整備され、とてもキレイになった駅前だが、私が高校生のトキは布施駅前で遊んでいる学生はみんなゴロツキと言って過言ではなかった。
私は実際ココで3度ほど大人数でカツアゲされた経験がある。
じゃあどうしてそんな物騒なトコで一人で遊ぶんだ?と訊かれれば、他に遊ぶようなトコがなかったからである。
正確に言うと、ゲーセンや大きな本屋がそこにしかなかったのだ。
私はいわゆるアーケードゲームが好きで(今でも好きだが)、よく布施近辺のゲーセンで遊んでいた。
ここでもう一つ説明を加えると、<ふせのげーせん>とパソコンのキーを叩いてスペース・キーで変換させると<悪の巣窟>になるくらい、布施では最もデンジャラス・ゾーンとされていた場所だ。
そのゲーセンの中で、最もデンジャラスとされていたトコロは悪の巣窟バッファローと言うゲーセンである。
このゲーセン、入り口のドアには必ず、
「○○高校の生徒は永久に入店を禁ず」
という高校を名指しされた張り紙が数枚貼ってあり、入店するのにチェックが入るという、ちょっと良いように言うとカジノのようなトコロである。
もう扱いが暴力団並だ。
私は、もちろんそんなバッファローにもよく遊びに行った。
しかしそんな物騒なトコロを、3度もカツアゲされた私が丸腰で行くワケもない。
もちろんそれからは護身用のナイフを常に持参していた。
当時私は、
<戦いを挑むものは、当然死を覚悟の上の事>だとばっかり思っていた、少しイライラしたミルキーっ子だったので、それはしかたのないコトだった。(この子はホントは虫も殺せない良い子なんです!みんな戦争のせいで・・・戦争のせいで!!)
私は過去2度このナイフを使ったことがある。
1度目は悪の巣窟バッファローで脱衣マージャンをしている私の後ろからカツアゲしてきたDQNにそれを使い、脅し、なんなく事なきを得た。
・・・・・・そして・・・・・・・・
そして2度目・・・・
この2度目こそが、私を恐怖のどん底に落としいれた体験なのである。

私はバッファローでそういうコトが起こったので、当分は行くのを自粛していた。しかし、家に帰っても何もするコトがなかったので、バッファローのすぐ近くにあるゲーセンUFOで遊ぶようにしたのだ。(懲りない奴だ)
このUFOと言う店、他のゲーセンよりいささか小さいトコで、人もまばらなまったく流行っていないゲーセンの部類だ。
しかし、当時アーケードゲーム界を騒がせたストリート・ファイターⅡ、通称ストツーが全国のゲーセンで稼動し始め、まったく流行っていなかったUFOも、それ見たさにそうとうのギャラリーを集めることとなった。
もちろん私もそのギャラリーの一人となったのだ。
私が興味深々にギャラリーで見えにくいゲームの画面を隙間から覗きこむ様に見ていると、私の肩を
「ポンポン・・・ポンポン・・・」
と、誰かが叩いてくるのだ。
「誰や?」
と思い、振り返ると、そこそこタッパのあるヌボっとした男が私の真後ろに立っていた。
そいつはおもむろに私の手を掴み、地下のピンボール・コーナーへと連れて行こうとするのだ。
因みにこのUFOの地下ピンボール・コーナーはいつも人はいなく、しかもとても薄暗いトコなのだ。しかし地下とは言っても階段5段程度の地下なのである。
そんなトコに無言で連れて行く奴など、誰が考えても99%カツアゲをする奴に決まっている。私はその時
「チッ!また来たな。」
と思い、油断している男のムナグラを掴み奥の壁に叩きつけ、ポケットからナイフを取り出し、1度目と同じやり方で男の首にナイフを押し当て、
「後1分ほどで死ぬけどなんか言い残すことある?」
と、静かに言った。(ピカレスク・ロマンかぶれの寒いセリフ・・・恥ずかしい・・・)
すると男は、やけに口ごもり何かを言っていた。
「・・・・ぽ・・・・ら・・・・・れ・・・・・・・」
「ああ!!!?なんやハッキリ言え!」
「ち・・・・・しゃ・・・・・・・れ・・・・」
相手はビビッている。もうこの時点で私の勝ちだ。しかし男は何かを言おうとしている。私は<その何か>が気になるのでもう1度聞き返した。
「なんやお前?ちゃんと喋られへんのか?あ?」
聞かなければ良かった。
その言葉を聞いた時、恐怖が私を包みこんだのである。
「・・・・・・・チン○しゃぶらせてくれ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「チン○しゃぶらせてくれ・・・・・アカンか?」
一瞬この男は言い逃れをしているんだと思ったが、はたして瞬時にこんな言い逃れを思いつくだろうか?もし思いついたのならコノ男はアカデミーの脚本の部門でオスカーを狙える腕を持っているに違いない。
そう。
コノ男はいたって<マジ>で言っている。
私はコノ男の本気に全身の血の気が引いた。
こいつは99%カツアゲすると言う奴以外の、<残り1%>の奴だったのだ。
「お前ふざけてたらホンマに殺すぞ!!!!!!!」
私は怖くなって声を荒げた。
「5000円あげるから・・・・・」
「値段の問題ちゃうやろこらあああああ!!!!!!」
「じゃあ10000円やったらあかんか?」
「せやから値段の問題ちゃう言うてるやろボケぇぇ!!!!」
はたから見ると<コント>みたいなやり取りだ。
落語で言うと<時ソバ>みたいでもある。
しかし、私の身体はコノ男に<狙われて>いるという恐怖。
その時私の身体はその恐怖に包まれていた。
「15000円で・・・・」
「ホンマに殺すからなあ!!!!」
もう<殺るか?ヤられるか?>の状態だ。
当時私はバリバリのチェリーボーイ。
ファースト・フェ○はもちろん女性にされたいと心から思っている、夢見るフツーの<男の子>だった。
そんな夢見るチェリーボーイがこんな奴にファースト・フェ○を奪われるなど断じてあり得ないのである。
ふたりはプリキュア的に言うと
「ぶっちゃけあり得ない!!」
である。
それからシュールなやり取りが数分続き、段々恐ろしくなった私はそいつをホッポリ出し、そそくさと店の前に置いてある自転車に向かった。
すると奴も付いてくるではないか!
「なあ・・・頼むわ・・ええやんか・・・・」
私はそいつを無視し、もう無言で自転車に乗り込み、そのまま商店街の中を全速力で自転車を走らせた。
しかし・・・・・・
振り返れば・・・・奴がいる!!!(主演:織田裕二 脚本:三谷幸喜
奴も自転車に乗り全速力で追いかけてきた。
私は布施の商店街<ブランド〜リ布施>の通行人を何人もひき殺しそうになりながらも逃げたのだ。
それでも奴は追跡してくる!!
もうそれは漫画ジョジョの奇妙な冒険第5部に登場するスタンド使い、氷を操りスケートで主人公の車を追いかけてくる恐怖の追跡者、<ホワイトアルバム>。
まさに奴はそのしつこさを持っていた。
以下、こいつのコトを<ホワイトアルバム>と呼ぶ。
私はホワイトアルバムを撒くタメに裏路地を通り、とにかく角という角を曲がった。
しかし奴はピッタリと私に付いてくるのだ。こいつはそんなに私のチン○をしゃぶりたいのだろうか?
まったくもって謎の男だ。
それから数十分。私は今まで使ったコトの無い筋肉を使い走り続け、ようやくホワイトアルバムを撒くことに成功したのだ。
ホッと一安心したところは、もう家の近くだった。
「はーーーーーー・・・・」
と深呼吸をし、タバコを一服して一息つこうとした所タバコは空だった。
「タバコ買うか・・・」
私は脱力した体のまま家の前を素通りして、近くのタバコの自販機まで自転車を走らせた。
タバコの自販機の前に自転車を止め、200円を取り出し、私は当時吸っていたハイライトを買った。(ハイライトは当時200円で安かったのだ)
「ガチャンッ!」
私はタバコを取ろうと自転車に乗ったまま屈んだ瞬間。
「キィィィィーーーー!!!」
誰かが自転車を止めた。私は次にタバコを買う人の邪魔にならないように、そそくさと購入口からタバコを取り出そうとした時、
足と自転車が見えた。
・・・・・・嫌な汗が全身に流れる・・・・・・・
なぜならそれは<見たコトのあるモノ>だったからだ。
ふと上を見上げると、そこには不気味な笑顔を浮かべているホワイトアルバムがいたのだ!
ここでもう1度言う。
これはノンフィクションだ!
私は無言で奴の自転車を蹴飛ばし、再び全速力で逃げた。
そしてやはり・・・
振り返れば奴がいる!!!(主演:織田裕二 脚本:三谷幸喜
「頼むわーーーー!!!お金あげるしいいやんかーーーー!!!」
もうこいつからは逃げられないんじゃないか?
すでにそんな弱気な心に私はなっていた。
しかし、神というのは一瞬のチャンスをくれるモノだ。
目の前に四つ角が見えた。
その右の方からダンプカーが横切ろうとしている。
このチャンスを逃すともう2度とチャンスは来ないと思った。
私はダンプカーが目の前を通り過ぎるギリギリの所を命がけで突っ切ったのだ!
すると驚いたドライバーは急ブレーキをかけホワイトアルバムはダンプの前で立ち往生をした!
完全に私の命がけの作戦の勝利だ!
しかし奴のコト、完全に撒かないと家を悟られる可能性がある。
私はそのままスピードをなるべく落とさずに3キロぐらい走り続け、森河内小学校の近くにある小さな公園に自転車を停め、ベンチでさっき買ったハイライトを吸い小一時間ほど奴が来ないかビクビクしながら辺りを警戒していた。
足は恐怖と疲労でガクガク振るえてたが、安堵感も同時に感じていた。
奴はとうとう来なかったのだ。
そして空はいつの間にか暗くなっていた。
そこで充分疲労を回復させた後、私は家路に着いたのだ。
もちろんホワイトアルバムを気にしながら・・・・・





かなり長くなったがいかがだっただろうか?<恐怖のホワイトアルバム
恐らくコレを読んだ人は
「絶対作りだな」
って思ってるんだろうな。でもそれはしかたがないコトだ。
私がコレ読んでもネタだと思うもん。
コノ話何人かにしたコトがある。しかしそのトキは<脚色>して話している。
どこを<脚色>しているかと言うと、
<ナイフ>の話が出てこないと言うのと、
<自販機でタバコを買う>下りと<ダンプカー>の下り。この三つの話をカットして話している。
だってコレ話すとリアリティ無くなるでしょ?
そう。ここで言う脚色は、ウソっぽくならないタメにワザと<あった話を無かったコト>にしているコトだ。
今ココに書いた話は完全版と言っていい。
そこいらのウソ話とはワケが違う背筋の凍る話だ。
私のつたない文章力でイマイチ伝わっていないと思うが、事実は小説より奇なりっていうのは伝わっただろうか?
ホワイトアルバム・・・・・
奴は今頃なにやってんだろ?