ベッドで寝ている女の子:「おばあちゃん。今日はどんなお話してくれるの?」
ユリ椅子で編み物をしているおばあちゃん:「そうだねぇ・・・じゃあ今日は90年代初頭のアイドルの話をしようかねぇ?」
ベッドで寝ている女の子:「わあ!!聞かせて聞かせて!!」

ところでアイドルって今カワイイ子多いよね?
モー娘。>とか<あやや>とかハロプロ系の娘とか。
それ以外にもいっぱいいるでしょ?
もうメンドクサイから全部書いてられないけど。
でも90年代初頭のアイドルなんてもう真冬。
当時活躍していたのは<COCO>とか<リボン>とか<乙女塾>系の娘達。
そして時期は数年ズレルが、<菅野美穂><加藤紀子><中谷美紀>などの<桜っ子クラブ>は多少売れてたみたいだが、もうほとんどアイドルなんて言葉は死語に近い状態だった。
もうこの時、世は空前のバンドブーム。
歌番組にもアイドルなんてほとんど出てこなかった。
というか歌番組に出ないバンドが多数いた為に、必然的に歌番組が成立しなくなったのだ。
女の子自身もそんなスポットの当たらないアイドルを目指すなんて、もう頭の中にもなかったんじゃないだろうか?
おにゃん子がなくなり、男達はこの突如沸騰したバンドブームに酔いしれた。
「もうブラウン管からアイドルなんて消えちまったのさ」
誰もがそう思った・・・・
しかし。
アイドルは・・・死に絶えてはいなかった・・・
(ここで<北斗の拳>の主題歌、<愛を取り戻せ>が流れる。)
麻田華子><山中すみか><江崎まり><伊藤智恵理><北岡夢子><田山真美子>。
この中で1人でも君が知っているアイドルがいるだろうか?
知っていたなら君はそうとうな基地外だ。
寒さを乗り切るにはグループを組み大人数で暖めあえばなんとかなるものだ。
しかし彼女達はこのアイドル真冬の時代に、コートもダウンジャケットも着ずに一人で外に飛び出した猛者なのである。
そして、動物が人目のつかないトコで死ぬように、彼女達もひっそりとその姿を消していったのだ。
だが、この真冬にようやく活気をとりださせたアイドルがいる。
そう。最後のアイドルと呼ばれた女<高橋由美子>愛称<グッピー>の登場である。
しかし、その彼女でさえこの氷の世界を生き抜くには苦戦を強いられたのだ。
それくらいこの冬は厳しかったのである。
その厳しい時代の幕開け1990年を目の前にした、1989年。
1人の少女がアイドルとして産声を上げる。
ホリプロタレントスカウトキャラバン>。
そう。あの榊原郁恵を生んだ老舗の大手アイドル発掘イベントで、この少女は見事グランプリを勝ち得たのである。
ここでグランプリに輝いた者は、この世の全てを手に入れる事が出来ると言う。(ウソ)
その少女の名は。
田中陽子>。
のちに愛称<ヨッキュン>と呼ばれ、数々の新人賞を総なめにし、まさにコノ冬を疾風の如く駆け抜けたアイドルである。

ではまず彼女のプロフィールを紹介しよう。
■本名      田中陽子(たなか・ようこ)
■愛称      よっきゅん 
■生年月日    1973年12月12日
■星座      射手座
■血液型     A型
■身長      161cm
■体重       45kg
■出身地     徳島市
■所属      ホリプロ
■レコード会社  PC
■オーディション 1989年ホリプロタレントスカウトキャラバングランプリ
         1989年ホリプロTHEオーディション・グランプリ
■デビュー    1990年4月25日
■デビュー曲   「陽春のパッセージ」(アニメ「アイドル天使ようこそようこ」の主題歌。
■備考      1991年 芸能界引退。会社に勤めをしながら元気にしている。

彼女はこの時期のアイドルにしてはかなり歌唱力のある方で、<ホリプロ>という巨大なバックのおかげもあり、<アイドル天使ようこそようこ>というアニメーションの主人公にまでなった期待の新人だった。
まさにシンデレラ・ガールになったのである。
しかし!
ここで<備考>の欄を見てもらいたい。
芸能活動を始めて僅か<1年>という短い期間で芸能界引退を表明している。
それはマネージャーと駆け落ちしたとか、できちゃった結婚だとか、そういったありふれたものではない。
彼女が消えた本当の理由。
それは。
<素行不良>というものだった。
しかし今でもこの素行不良で芸能界を干された連中はいる。(アノ人とかコノ人とか)
だが、このヨッキュン、そんじょそこらの素行不良ではなかった。
そもそもアイドルというものは・・・いや、人間というモノは、<表の顔>と<裏の顔>がある。
森羅万象<表裏は一体>なモノだ。
それを巧みに使い分けなければいけないが<アイドルという仕事>なのである。
だがヨッキュンはそんなぬるい仕事は向いていなかったのだ。
「裏の顔も見てちょうだい!っつーか見ろよお前ら!」
と言ったところだ。
私は、彼女の最後の仕事・・・いや、もう芸能界に復帰できないであろう最後の仕事をこの眼で目撃した人間の1人である。
その最後の仕事とは、新人アイドルばかりを集めた深夜のクイズ番組だったと記憶している。
競演していたのは
仁藤優子><早坂好恵>司会に<中山秀征>確かこの3人はいたと思う。
なにぶん昔の話なので、良く覚えていないのだ。
「おい、ホントに大丈夫か?」
と思うかもしれないが<あの事件>は忘れることはできない。
この番組の内容は、簡単なクイズを出し、それを新人アイドルがボケ連発の答えを出してみんなに笑ってもらおうみたいな番組だったと思う。
この番組、序盤から少し様子が変だった。
なぜなら、
ヨッキュンの顔つきが<アイドルの顔>ではなく、<チンピラの顔>をしていたからである。
そしてクイズが始まり最初の方は、アイドルの珍回答連発で和やかなムード。
しかし、この和やかなムードを壊し始めたのがわれらがヨッキュンだった。
もう罵詈雑言の雨霰。
「しらねーよそんなの!!」
とか
「じゃあお前が答えてみろよ!!」
などなどのチンピラぶり。
しまいには椅子に立てひざついて座っていた。
もちろんヒラヒラのアイドルの衣装で。
後にも先にも<椅子に立てひざついて、ふんぞり返って座っているアイドル>なんて私はこのヨッキュン以外見たコトが無い。
番組が進むにつれヨッキュンの暴走は止まらなくなる。
もうどうしていいのかわからなくなる司会者。
そこにはもう<アイドル歌手・ヨッキュン>などいなかった。
<人間・田中陽子
そこにいたのは<アイドル(偶像)>ではなく<ただの人間、田中陽子>しかいなかったのである。
そしてアイドルとしては松本明子以来の
「ピーーーーー」
という音。
凍りつくスタジオ。
それにつられて
「ピーーーーーってなんですか?」
と、当時少女だった沖縄出身のアイドル早坂好恵
沖縄出身の彼女にはその言葉の意味が解らなかったんだろう。
訊きかえしてしまうという輪をかけたハプニング。
そしてその説明をしようとする人間・田中陽子
テレビの前で爆笑する私。
どうしてテレビ局はあんな番組に放送のOKを許したのだろうか?
「ピーーーーー」
を入れるくらいならカットすればいいと思うのだが。
私が思うに当時それくらいアイドルという存在はなめられていたのだと思う。
それとももうこのバンド・ブーム全盛の時代には、それくらいパンクな存在はアリだというムードがあったのか?
真相は闇の中。
そしてヨッキュンもそれ以降闇へと消えていった。
私はこの歴史的な事件に立ち会えたコトを幸せに思う。
「アイドルだって人間なのだ」
これを<雑誌ブブカ>が発売される以前に気づかせてくれたのだから。
さらばヨッキュン!!
彼女は芸能界と言う<星屑>から、数多く消えた星の1つだ。
だが私は彼女のことを忘れないだろう。

メーテルまた1つ星が消えるよ
赤く
赤く燃えて
銀河を流れるように
銀河を流れるように
             銀河鉄道999エンディングテーマ曲<青い地球>より  

写真:田中陽子