ベッドで寝ている女の子:「おばあちゃん、今日はどんなお話してくれるの?」

ユリ椅子で編み物をしているおばあちゃん:「そうだねぇ・・・じゃあ今日は昭和最後の少女活劇ドラマ、花のあすか組の話をしようかねぇ?」

ベッドで寝ている女の子:「わあ!!聞かせて聞かせて!!」




昭和は恐ろしい。
昭和はカオスだった。
コントなのかマジなのかわからないドラマを大人は本気でやっていた。
スチュワーデス物語りがあった。
少女に何が起ったかがあった。
それらを製作した大映ドラマがあった
そしてスケバン刑事があった。
それを製作した東映があった。
そしてその流れを経てセーラー服反逆同盟などがあった。
その他様々な
「お前・・・それ笑わせようとしてるのかマジでやってるのかどっちだ・・・?」
と疑う荒唐無稽なドラマが昭和にはあった。
バカな世界でバカたちの歯車が完全に噛み合い機能し合う世界。
そう、そんな突っ込みが誰1人いないコントが昭和にはあった。
しかし、突っ込みがいないコントで人は笑えるのだろうか?
笑えるのだ。
突っ込みがいないコントの突っ込みは視聴者。
我々視聴者が突っ込みに回ればどんなモノにだって笑いに変えるコトが出来る。
その方法を教えてくれたのがこれらの作品たちである。
その突っ込みのいないドラマとは具体的にどう言うモノを指すのかを大映ドラマの大ヒットドラマ、スクールウォーズを例に挙げて説明しよう。
主人公である熱血教師<滝沢>が神社で不良に絡まれ、そこへ他校の生徒である<けい子>という金持ちの女子高生が白馬に乗って現れ、馬で威嚇し不良を追っ払う。
そんなシーンがあった。
神社に白馬。
スクールウォーズはご存じのように時代劇などではない。
どう考えてもコレはおかしい。
けい子は<さっき白馬に乗ってたらたまたま神社で先生が不良に絡まれて>みたいな顔をしている。
明らかにコレはボケだ。
突っ込む言葉は湯水のように湧いてくる。
しかし、滝沢は突っ込まない。
神妙な顔をしている。
そしてそんな神妙な顔をした滝沢にけい子はこう言う。



「滝沢先生ですね、馬上から失礼します」



ボケだ。
完璧なボケだ。
普通なら1秒という間を空けずに突っ込まないといけない場面だ。
しかし、一切滝沢は突っ込まない。
白馬について一切疑問など投げかけない。
真剣なシーンだ。
何故なら滝沢はこの素っ頓狂な出来事に一切笑ってなどいない。
そして突っ込みがないまま、このまま話は続けられるのだ。
「ほら!!神社に女子高生が白馬に乗って来たぞ!!突っ込めよお前ら!!」
と、制作者は視聴者に対し挑戦状のようなモノを叩きつけ、勝手にドンドン話を進めて行く。
しかし、笑わせようという気は微塵も感じさせない。
ここが肝心だ。
笑わせようというやらしさをまったく見せないのが素晴らしいのである。
あくまでこれは演出なのだという感じでこれらのボケは突っ込みもなく流されて行くのだ。
昭和にはこんな突っ込みのないコント(ドラマ)がたくさんあった。
そして、そんな昭和の突っ込みのいないドラマの最後を飾ったのが1988年にフジテレビで放送された花のあすか組なのである。
当時関東では夜7時頃の放送だったが、私の住む関西では夕方に放送しており、当時中学生だった私はテレビにかじりついて見ながらビデオも全話録るほどこのドラマにハマっていた。
花のあすか組!とは高口里純によるコミック原作で、それを当時のアイドルたちによってドラマ化されたモノである。
主人公、九楽あすかに小高恵美

そのマブダチ堂本ミコに小沢なつき

香月はるみに石田ひかりと言うキャスティング。

当時のアイドル事情を知らない方はピンと来ないだろうが、正直、この3人は微妙なのである。
主人公の小高恵美は当時まったく無名。
小沢なつき石田ひかりはそこそこ売れてた程度だったが、この2人がこの作品で唯一顔が売れてるアイドルだった。
この作品は戦国に突入した女子中学生たちの激しい戦いが主な内容なので、兎に角女の子しか出てこないのだが、その他の出演者は
「え?お前誰?」
というB級アイドルの見本市と化していた。
先ほど言った、戦国に突入した女子中学生たちの激しい戦いとはどういう意味か?
ホントはもっと語りたいコトがあるのだが、長くなるので、しょうがないから早速花のあすか組のあらすじを紹介しよう。




大人たちが太平の天下を貪っている時、少女たちは今、戦国時代に突入していた。
全国中学生裏番組織、<全中裏(ぜんちゅううら)>という巨大組織により全国の中学は恐怖と暴力に支配され、全国の中学の八割が手中に収められていた。
主人公、九楽あすかの通う西三区の泰山中学もその標的にされ、あすかの友人<サチ>は全中裏に利用され殺される。
あすかはサチの忘れ形見である24Kの金貨を武器に、たった一人の構成員<あすか組>を名乗り、巨大組織<全中裏>の全国制覇の野望を阻止すべく戦うのだった。

聞いたコトがある。
こんな話聞いたコトがある。
そう、仮面ライダーのOPナレーションだ。

仮面ライダー本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは世界制覇を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは人間の自由の為にショッカーと戦うのだ!

もうこれは私の好きな仮面ライダーそのものと言って過言ではない。
この作品を制作したスタッフはほとんどスケバン刑事と同じスタッフなのだが、突っ込みのないコントが大好きな私たちのツボを良く心得ており、特撮ヒーローのメソッドをそのまま女の子たちにやらせるという素晴らしい突っ込み満載の出来になっているのである。
では特撮ヒーローのメソッドとはどういうモノか説明しよう。




特撮ヒーローにおいて1番大事なのは敵組織の幹部たちの魅力。
ここをおざなりにしてはキュっと話がしまらない。
全中裏はひばりをトップとした組織で、構成員はひばりには絶対服従
うん、悪の首領らしい特撮ヒーローな世界だ。
そして特撮ヒーローにおける1番重要なファクター、それは異様な姿をした敵幹部である。



では、まず全中裏の総帥であるひばりを紹介しよう。
全中裏の総帥<ひばり>はいつもフリフリのドレス姿で、肌身離さずフランス人形を持っている。

ひばりはレース越しから部下に指示を出し、そして、部下が失敗を犯すとひばりは
「見苦しい・・・」
と書かれたカードを投げつけ、それを見た部下は任務を怠った部下をはがい絞めにし、全中裏の更生施設<蘭塾>という地獄のような場所に送らせるのだ。
「ひばり様!!蘭塾にだけは・・・!!蘭塾にだけはああああ!!!」
みたいな。
まんま悪の首領だ。
中学生の集団が更生施設?
見てるこっちはもう突っ込みたくて仕方がなくなる。
製作サイドの思うツボだ。




そして、ひばりの側近、全中裏では<右大臣>というポストに就く<春日>

片手にはいつもムチを持ち、白い学ランを着ており、全中裏の参謀を務める。
部下が失敗を犯すとムチで粛清。
まんま悪の幹部だ。



しかしここまでは余興にすぎない。
これくらいでは悪の秘密組織ショッカーの濃さには勝てない。
本編はここからである。
全中裏には全中裏十人衆という、特撮ヒーロー好きにはたまらない呼び名の部下たちがいる。
そして、この全中裏十人衆こそが最もパンチの効いてる集団なのだ。







まず、全中裏十人衆の一人、紅(くれない)

セーラー服に鎧、そして馬。
もちろんこの物語りは時代劇ではない。
完全に常軌を逸しているが、この姿にももちろん誰も何も突っ込まない。
手前にいるのは覚醒する前のあすかと友人サチなのだが、この後友人サチは紅のムチで首を巻きつけられ馬で引っ張り回される。
もう1度言うがこれは時代劇ではない。
当時中学生だった私は第1話の初っ端2分ほどで登場したこの紅を見た瞬間、衝撃が走り爆笑する。
それと同時に
「オレは最後までこのドラマに付いて行くぞ!!」
と決定付けた私の大好きなキャラの1人だ。
先ほど例でスクールウォーズに馬に乗った女子高生の話をしたが、馬にはバカを加速させる何かがある。
馬鹿ってくらいだから馬と鹿にはバカな何かが存在するんだろう。
馬はバカドラマには欠かせない鉄板アイテムだ。



そして紅に負けず劣らずパンチの効いた、風、林、火、山四人衆。


セーラー服に陣羽織、頭に陣鉢。
まさに正気の沙汰ではない格好。
そして彼女たちには個々に必殺技が設定されている。
風の武器は吹き矢、林の武器は和紙(?)を投げて相手を切りつける攻撃、火の武器は口からアルコールを吐きマッチで炎をおこす攻撃、山は怪力の持ち主。
お前らはハカイダー4四人衆か?

キカイダー01ハカイダー四人衆


そして注目して頂きたいのは、火役の女の子は当時B級アイドルだった和久井映見
この頃の和久井映見は大根中の大根の芝居で私を大いに萌えさせてくれた。
そもそも大人しい性格の和久井映見にスケバンという荒々しい感情はまったくなかったようで、がんばって怖い演技を無理やり引っ張り出しているところが良い。
そしてそんな和久井の必殺技が口でアルコールを吐きマッチで火を付ける攻撃だ。
見た目かなり豪快な技である。
しかし和久井は口に含んだアルコールを



「ぴゅっ☆」



って出す。



「ぴゅっ☆」



って出す。
炎攻撃で燃えるって言うか、萌える。





そしてその他にもバイオリンの弦でカミソリを飛ばすカマイタチという技を持つ葵(あおい)や、座敷わらしのようなカッコでお手玉を武器にする弥勒(みろく)、変装の名人でブーメランを武器にする朱(オレンジ)、刃物の付いた竹馬が武器の鬼(おに)などなど、怪人のような敵と戦うあすか。


正直、この作品の魅力を語ると物凄く長くなるので今回は敵組織、全中裏だけをピックアップしていこうと思ったが、それでも言い足りない気持ちでいっぱいだ。
細かい組織表を拾ったんで全中裏のコトが気になる方はどうぞ。



しかし、こんなウソみたいな設定でも燃える展開も萌える展開もあるのも事実。
イジメられ自殺未遂を犯したあすかが祖父の一言で覚醒し、全中裏と戦う決意をして髪を切るシーンと、美容室に行って
「プレイバックPart 2歌ってた頃の山口百恵の髪形にしてくれ!!」
という台詞はやはり燃える。
あと毎週<あすか語録>というものもあり、こう言う演出も良い味を出している。


やはり相田みつをよりあすか語録。
私らの世代はみんなあすか語録を背負って生きているのです。
そんなこんなで前半熱い燃える展開、後半一段落して萌えるゆるい百合的展開になるという一粒で二度おいしい出来になっている花のあすか組



そんな花のあすか組、今youtubeで全話アップされている。
全話見てしまった。
今、マーケティングマーケティングで視聴者の食いつきそうなモノを顔色伺いながら作るドラマばかりなので、こういうドラマはもう2度と生まれないだろう。
皆もこの昭和の忘れ形見を見るべし!
以上。