私が中学の頃、セーラー服盗難事件という、当時中学生の我々にとって相当キャッチーな事件が勃発しました。
その事件は当時校長の朝礼で発表されるほどの事態になりました。
私と友人の山崎君はその事件が校長の朝礼で公になる前に、その犯人の目星をすでに付けていました。
それはセーラー服を盗まれた女子に好意を持っていた宮本君です。
私たちは宮本君とはそんなに仲は良くなかったですが、ちょくちょく遊んではいたので、その女子に好意を抱いているというのは口には出さずとも、所詮中学生なので、なんとなくそういう雰囲気が出ていたのは山崎君共々察知していました。
その事件発覚からと言うモノ、私と山崎君は鬼刑事になりました。
中学生の鬼刑事ほど恐ろしいモノはありません。
なんせ大人と違ってデリカシーというモノが微塵もないですから。
私と山崎君はまず、宮本君と劇場版ダーティペアを一緒に観に行く程の仲だった森岡君に聞き込みを始めました。
劇場版ダーティペアを一緒に観に行く程の仲なら、何かしら宮本君の異変に気付いてると思ったのです。
そして我々は森岡君の家に遊びに行くという体で、森岡君に少し手荒い聞き込みをしたところ、
「最近あいつの態度がおかしい」
や、
「たぶんオレはあいつが犯人だと思う」
などの証言を森岡君はすぐにゲロしました。
鬼刑事となった私と山崎君は、森岡君に
「宮本の家に電話して今から遊びに行くって言え。もちろんオレらが一緒だと言うコトは伏せろ」
と言い、電話をさせました。
そして私と山崎君と森岡君は宮本君の家へガサ入れするコトになりました。
宮本君のマンションに着いて、森岡君にインターホンを押させると、宮本君はドアを開けました。
私と山崎君はすかさずドアの隙間に足を入れて部屋へ突入。
宮本君は私と山崎君の顔を見た瞬間、瞬時に
「あ!!!ヤベエ!!!」
と言う顔になり
我々を家から追い出そうとしましたが、署内きっての鬼刑事である山崎君の前ではなす術もなし。
「親は今おんのか?」
と、山崎君はヤクザ顔負けのボイスで宮本君に聞いたところ、晩まで帰ってこないと言いました。
誰よりも悪を憎む山崎君と私は、宮本君の家の押し入れやらタンスやらを開け、ブツを探し始めました。
そのガサ入れの最中、宮本君の顔を見たところ血の気は引いていましたが、その血の気の引きようは家が荒らされているから、というより、<明らかに何かを隠している血の気の引き方>だったので、ビンゴだと思いました。
宮本君はこいつらはマジだと思ったのか、すぐに観念し、
「ごめん!ごめん!」
と我々に土下座をしました。
しかし、ブツも出ていないのに土下座1つで帰ったのではただのイジメです。
宮本君のその土下座の意味を聞き出さない限り我々刑事は帰れないのです。
我々は餓鬼の使いで来たのではないのです。
その場にいた森岡君は<もう終わりにしよう。宮本。>と言う雰囲気でたたずんでいました。
そして宮本君は押し入れの上の引き出しの隅に隠していたセーラー服を出し、暗い表情でうなだれました。
我々からは笑顔がこぼれました。
宮本君は
「絶対言わんといて!!!絶対誰にも言わんといて!!!」
と涙ながらに懇願。
しかし、私たちは何も宮本君が憎くてこんなコトをしているワケではないのです。
おもしろいからしているのです。
誰よりも悪を憎む山崎君と私ですが、罪を憎んで人を憎まず。
十分楽しんだので、宮本君のこの犯罪を我々は見逃してあげるコトにしました。
そして宮本君は安堵の表情の後、ようやく笑顔を取り戻しました。
その後我々が知りたかった<このセーラー服の使い道>について宮本君に言及したところ、<着る>という爆笑キーワードが飛び出、我々はいつもやってるように着てみろとリクエストしたところ、無罪放免になった宮本君は明らかに調子に乗った感じでセーラー服に着替え、我々を更に爆笑させてくれました。
そして我々は宮本君の家で当時珍しかったツインファミコンでひとしきり遊び、
「もうこんなコトすんなよ」
と言い、その場を去りました。
誰しも心の中に悪はある。
正義とは何か?
悪とは何か?
中学生の歪んだ性とは何か?
いろいろと考えさせられる恐ろしい事件でした。
このセーラー服盗難事件は私たち以外、犯人は誰にも知られるコトなく迷宮入りとなりました。
あの事件からもう23年経ち、時効もとうに過ぎました。
宮本が盗んだセーラー服の行方は宮本以外、もう誰も知らないのです。
そして23年経った今、ふと、こう思うのです。





「母さん、宮本が盗んだあのセーラー服、どうしたでしょうね・・・」





エンディングテーマ曲「人間の証明のテーマ」唄:ジョー山中


以上。