fujigelge2004-09-21

アオォォォォン・・・ワンワン・・・
とある路地裏にある、いつも80〜90年代のアイドルの歌が流れる、負け犬のホーム・グラウンド<小料理屋:幻魔大戦>にて。



(BGM:あなただけチェンジ・ミー/花島優子)
オレ:「ういいいぃぃぃ・・・・・」
女将:「あらあらちょっと不治さん・・・・・もうお家に帰った方がいいんじゃない?もう終電よ?それにいつまでもイマイのプラモデル<ロボダッチジオラマシリーズ:宝島>なんかウチのお店に来てまで作らないでよ・・・・・カウンター<セメダイン>でカリカリじゃないの・・・・」
オレ:「ガタガタうるせぇ!!黙ってろ!!!この<生贄(いけにえ)ロボ>が!!!!」
女将:「・・・・・・それ<宝島>にいる<ワケの分かんないキャラ>じゃない・・・・もう・・・・そんなに酔い潰れて・・・・またなんかあったの?」
オレ:「おい女将。オレの職業って何か分かるか?」
女将:「あら?何よ突然。不治さん漫画家じゃないの?」
オレ:「へへ・・・・漫画家ねぇ・・・・今なんの掲載誌も持ってねぇのにか?そんなの漫画家なんて言わねぇよ。まあ言ってみりゃ漫画家浪人か?いや・・・むしろるろうに剣心だ。」
女将:「・・・・・い・・・・言ってる意味は良く分からないけど、その漫画家浪人がどうしたって言うのよ?」
オレ:「ああ・・・・昨日ちょっと自分のペンネーム検索かけたら、オレの漫画が2003年12月・単行本収録希望作品の22位に選ばれててよ・・・・」
女将:「あら!!22位!!?ちょっと古い話で順位も中途半端だけど凄いじゃない!!!で、何人くらいの人が指示してくれたの!!?」
オレ:「・・・3人・・・・」
女将:「・・・・・・・・・・・・・・で・・・・・・・・・・でも凄いじゃない!!え・・・・選ばれただけでも名誉なコトだと思うわ!!!じゃあその人達の為にも早くお家に帰っておもしろい漫画描かなきゃダメよ!!!」(早く帰って欲しい)
オレ:「まあな・・・・・確かにありがてぇこったよ・・・・・こんな野良犬がドヤ街から紙とペン1本で、あしたのタメに頑張ってきた甲斐があったってもんだ・・・・・このドヤ街には泪橋(なみだばし)を渡っていろんな負け犬がやって来る。だがオレはこのドヤ街を出るタメに・・・泪橋を逆から渡ってやる・・・そう思って今まで人生と言う名のレールを走ってきた・・・・しかし女将・・・・オレは今どこにいる・・・・・」
女将:「・・・ま・・・負け犬のホーム・グラウンド・・・・小料理屋:幻魔大戦・・・・・」
オレ:「そうだ・・・・・デビューしてはや6〜7年経過して・・・・事実オレはまだこんな所でくすぶっている・・・・・あしたの為にその1:集中線、あしたの為にその2:デッサン・・・・オレは人より不器用というハンデを克服しようと、漫画家として大事なスキルをオレなりに頑張ってきた・・・・その甲斐あって、以前連載したサイキックソルジャー正義はネットなどで、こうやって数人の漫画読みの皆さんが書く日記などに褒めてもらったりして、それを見るたびにオレは勇気を貰い、諸手を上げて喜んだモノさ・・・・だが・・・・だがなぁ・・・・それじゃあダメなんだよ・・・・」(右手に持ったファジーネーブルのグラスと左手に持ったロボダッチのタマゴローを握り締め)
女将:「・・・・・ダメって・・・・何が・・・?」
オレ:「・・・・いくら・・・・・いくら褒めてくれても読者アンケート送ってくれねぇとダメだっつってんだよおおおおおおお!!!!!そんな暇あったらアンケート送れよおおおおおお!!!!読んだらすぐ送れよおおおおおお!!!!もう読まなくてもいいから送れよおおおおお!!!!そしたらオレはこんなトコとはとっくにおさらばしたってのによおおおおおお!!!!アンケート!!!!もっとアンケートをををををを!!!!!」バキッ!!!(右手に持ったファジーネーブルと左手に持ったタマゴローを握り潰す)
女将:「(エプロンから眼鏡を出して掛ける)不治さんのバカ!!!!!」
                   パシ!!!(殴った)
オレ:「お・・・・・女将・・・・・?」←(眼鏡っ娘好き)
女将:「不治さん・・・・変わったわ・・・・・不治さん私に言ったじゃない・・・・オレはアンケートなんか関係ねぇ・・・・例え金にはならないかもしれないが、好きなコトだけ描いてふざけ切ってみせるって言った、あの不治さんはどこに行ったの?・・・・・佐藤陽一(24)を描いてたトキにファンレターを1通貰ったわよね?そこの最後にはなんて書いてあった?」
オレ:「・・・・・・これからも・・・・・頑張って下さい・・・・・」
女将:「そうよ。その人の為にも頑張らないとダメよ!前へ・・・・前へ進めじゃ!!!」
オレ:「おおおお!!!それはアニメ家なき子に出てくるオレの敬愛するお師さんビタリスの言葉!!!!」
女将:「不治さん・・・・今日は呑みましょ。私にサイキックソルジャー正義の話を聞かせてよ。」(微笑みながら)
オレ:「・・・・・・お・・・・・女将・・・・・へへ・・・・もうとっくに終わった人気のない漫画の話だぜ?いいのかい?」
女将:「いいわよ」(グラスを傾け)
隅の方のカウンターで呑んでいた男:「くっくっく・・・・・こいつぁいいや・・・・誰かと思いきや、藤寿男大先生じゃねぇですか。こんなトコでご一緒出来るなんてねぇ・・・・」(不敵な笑みで)
女将:「はっ!!いつの間に!?他のお客さんはもう帰ったと思ってたのに!?」
オレ:「へへ・・・・あんたこのオレのコト知ってるのかい?」
カウンターの男:「くっくっ・・・・・知ってまさぁな・・・・一時期ヤンマガで代原やらインタビュー漫画などを描いて、その別冊では何度か掲載し、最近まで男性ファッション誌でおしゃれん坊を描いてた、あの藤寿男大先生でしょ?」
オレ:「おい・・・・・その<大先生>ってのやめろや。ちょっと嫌味に聞こえるぜ。」
カウンターの男:「おお・・・これは失礼。いやあちょっと有名人に会ったんで興奮してまして・・・大先生。」
オレ:「おい!!!だからその大先生ってのやめろって言ってんのがわからねぇのか!!!」(椅子から立ち上がる)
女将:「ちょ・・・ちょっと不治さんやめなさいよ!!あんなの相手にしちゃダメよ!!」
オレ:「分かってるよ・・・・店じゃ暴れねぇから心配すんな・・・・ただここにいる兄さんがオレに話があるみたいだからよう。ちょっと聞いてやろうと思ってなあ。・・・・・おいあんた。なんて名前だ?」
カウンターの男:「くっくっ・・・・いやあ名乗るほどでもねぇでさあ。有明界隈じゃお絵かき権藤って呼ばれたコトのあるチンケな同人作家ですよ・・・・」
オレ:「ほう・・・・その同人作家の兄さんが、オレになんか用でもあるのかい?」
お絵かき権藤:「くっくっ・・・・・いやね?プロの漫画家さんの昔話があまりにもみっともなくってねぇ・・・・・あっしにゃ、あんたがその世界には帰れないんじゃないかって不安に思っている子リスのように見えて・・・・・いやあ滑稽だ。」
オレ:「・・・・・おい・・・・今更ごめんなさいなんて頭下げるなよ・・・・・もう遅いぜ・・・・おらあもう完全に頭きちまってるんだ・・・・誰がどうなだめすかしたって今更収まりがつくもんじゃねぇ・・・・行き着くトコまで行くまでだ・・・・」
女将:「そ・・・・そのセリフはあしたのジョーで鑑別所に入れられた矢吹丈が大部屋に入れられ、そこで<パラシュート部隊・ねじりん棒>などのリンチに会い、たまりにたまりまくった怒りを爆発させるシーンの引用!!!不治さん本気だわ!!!やめて!!!やめてえええええ!!!」
お絵かき権藤:「くっくっ・・・・・大先生・・・あっしとヤルって言うんですかい?やめときなさいよ。今のあんたじゃあっしにゃあ勝てねえぜ?」(そっと革の手袋を外す)
オレ:「オレが同人野郎に負けるって言うのかい?・・・へへ・・・・良い度胸だ・・・・あとで吠え面かくんじゃねぇぞおおおお!!!!!」
お絵かき権藤:「望むところだあ!!!!」
                   バンッッ!!!!!!(お互い紙と鉛筆を出す)
オレ:「お題はロングヘアーとワンピースを着た美少女!!!!制限時間は10分!!!!ジャッジはこの女将と自分自身!!!!!」
お絵かき権藤:「用意はいいぜ?」
オレ:「よおおし!!!!スターーーーーーーートおおおおおおおお!!!!!」
                   カリカリカリ・・・・・(絵を描く音)
女将:「・・・・あ・・・・あああ・・・・・は・・・始まってしまった・・・・・もう誰も止められないのね・・・・・この真剣勝負はこの私じゃ止められないのね・・・・・不治さん・・・・頑張って!!!」
                   そして10分が経過
オレ:「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・で・・・・出来たぜ?」
お絵かき権藤:「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・・あっしも出来やしたぜ?」
オレ:「じゃあお互い絵を女将に渡そうじゃねぇか・・・・」
お絵かき権藤:「分かった・・・」
                   絵を女将に渡す
オレ:「・・・・・・・・どうだい女将?・・・・・・どっちが勝ちだ?」
女将:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(ワナワナと震えている)
オレ:「おい!!!聞こえねぇのか!!!!どっちが勝ちだ!!!!?」
お絵かき権藤:「くっくっく・・・・・女将はもうどちらに軍配が上がったか分かってるようだな・・・・」
オレ:「なにいい!!!」
お絵かき権藤:「じゃあ・・・・あっしは帰らせてもらいやすよ・・・・・」(革の手袋をはめる)
オレ:「ま・・・・待て!!!!勝負はまだ終わっちゃいねぇぞ!!!!」
お絵かき権藤:「じゃあ・・・・またな・・・・大先生。」ピシャ!(幻魔大戦から出て行く)
オレ:「待ちやがれ!!!!権藤!!!!!・・・・・へっ・・・・いくじのねぇ野郎だ・・・・おい女将。いつまでボーっと突っ立ってやがる。勝負はどうだったんだ?」
女将:「・・・・・・・・・メ・・・・・・」
オレ:「?どうしたんだい?やけに青ざめた顔してるじゃねぇか。オレにも見せろよ。あの鼻持ちならねぇ奴の絵を見て笑ってやろうぜ。」
女将:「ダメ!!!!見てはダメ!!!!」
オレ:「・・・・・・・ま・・・・・まさか・・・・・まさかオレが負けたって言うんじゃねぇだろうな・・・・・・おい!!!女将見せろ!!!オレに奴の!!!お絵かき権藤の絵を見せるんだ!!!!」
女将:「いやああああああ!!!!ダメよ!!!ダメよ不治さん!!!!見てはダメえええええ!!!!」(女将から絵を奪い取る)
オレ:「・・・・・・・う・・・・・・・うまい・・・・・・・・・オレの絵など・・・・・・まるで幼稚園児の描いた絵だ・・・・・・・レ・・・・・レベルが違いすぎる・・・・・・・」(ガックリと膝を落とす)
女将:「あああっ!!!!!お・・・・思い出したわ!!!!お絵かき権藤!!!!?彼は数年前、数々のコミケでその名を轟かし、1年で数千万を稼ぐも突如その姿を消した謎の同人作家!!!!全盛期を迎えたトキ、彼はプロの作家に対してこう言ったわ!!!」
全盛期のお絵かき権藤:「くっくっ・・・・・プロ?一体何を基準にプロって言うんだ?俺だってこうやって立派にプロじゃねぇか・・・・・商業ベースに乗らねぇとプロじゃねぇのかい?別に俺はこのままでいいね。萌えや、それを駆使したエロ漫画を描く身内ウケの俺の作品じゃ商業ベースで通用しないのは分かっている。だが、萌える絵を描くコトならプロにゃあ負けねぇ自信はある。俺が1番気にくわねぇのが商業ベースで中途半端な作品発表してるサンピン漫画家だね。あんなのになるくらいだったらココで楽しくやってる方が良いやな。くっくっくっ・・・・」
オレ:「・・・・・・負けだ・・・・・・か・・・・勝てるワケがなかったんだ・・・・・鉛筆で描いたのにもかかわらず・・・・<抜き>までしっかりしている一点の曇りの無い<線>・・・・・・それに比べ・・・・オレの絵は・・・線に迷いがある・・・・・か・・・・完敗だ・・・・・」ドサ!!(精神的ショックで倒れこむ)
女将:「不治さん!!!不治さん!!!しっかりして!!!!不治さああああん!!!」(抱きかかえながら)
                見たコトのある風景
オレ:「・・・・こ・・・・ココはどこだ・・・・この花の波・・・・湖は遠く・・・・燃える雲が優しい・・・・な・・・・なんて美しいトコなんだ・・・・」
赤い髪の少女:「あら?やっと気づいたわ!あなた大丈夫?・・・・わっ!ヒドイ熱!!ちょっと待ってて!今、川でハンカチを濡らしてくるから!!」
オレ:「お・・・・お嬢さん・・・・こんな野良犬に気を遣わないでくれ・・・・こんな・・・負け犬のオレに・・・・って行っちまった・・・・それより・・・・ココは?」
赤い髪の少女:「さあ!!コレを頭に。あなたはどこからきたの?」
オレ:「我らは遠くから来た・・・・そして遠くまで行くのだ・・・・」
赤い髪の少女:「それ・・・・白土三平忍者武芸帳に出てくるセリフ・・・。あなたさすらってるのね?」
オレ:「さすらっている・・・・」
赤い髪の少女:「一体何に?」
オレ:「オレはもう居場所がないのさ・・・・・もう・・・・どこへも行けない野良犬なのさ・・・・もう・・・・もうオレは本当の一人ぼっちなのさ!!!」
赤い髪の少女:「(スカートから眼鏡を取り出して掛ける)バカ!!!!」
                 パシ!!!(殴った)
オレ:「・・・・・・・もうダメだ・・・眼鏡っ子にぶたれても、もう立ち直れない・・・」
赤い髪の少女:「何があったか知らないけど!諦めてはダメ!!!昔ある人がこんな言葉を残したわ。<涙で渡る血の大河、夢見て走る死の荒野>って。」
オレ:「そ・・・・・その言葉は!!?アニメサイボーグ009のオープニングテーマ<誰(た)がために>の歌詞!!!?」(作詞:石ノ森章太郎
赤い髪の少女:「いつでも夢を忘れたり、諦めてはダメよ。例え血の大河でも死の荒野でもよ?・・・・私はこれから日曜学校に行くけど、そのついでにお医者さんを呼んで来るわ。動いちゃダメよ!そこで待ってて!」(微笑みながら去って行く)
オレ:「待ってくれ!!!君はもしかして!!!もしかして・・・・・」
女将:「・・・・治さん・・・・不治さん!!!しっかり!!!しっかりして!!!!」
オレ:「・・・・ううん・・・・こ・・・・ココは?」
女将:「幻魔大戦よ!!私のお店よ!!!」
オレ:「そうか・・・・権藤の絵を見て・・・気を失っていたか・・・・」
女将:「・・・不治さん・・・・・気を落とさないでね・・・・・アノ男の言ったコトなんて忘れちゃいなさい・・・・あの男の目の前で・・・泪橋を・・・泪橋を逆から渡ってやりなさい!!!」
オレ:「へへ・・・・女将・・・・・慰めてるんならお門違いだぜ?オレはもう立てる・・・・大地にしっかり足をついて立てるぜ!」(スックと立ち上がる)
女将:「ふ・・・不治さん?何故かしら・・・・不治さんが・・・・一回りも二回りも大きく見える・・・・!?」
オレ:「泪橋を逆から渡る・・・・このコトにオレは囚われてたのかもしれねぇな・・・・大事なコトを見失うトコだった・・・・そいつが今分かったよ。」
女将:「そうよ!!不治さん!!!なんか今凄く良い感じだわ!!!その意気よ!!!」
オレ:「ああ。」
女将:「それより、さっき倒れていた間に何かあったの?妙にうなされてたけど?」
オレ:「時は春、日は朝(あした)、朝(あした)は七時、片岡に露みちて、揚雲雀(あげひばり)なのりいで、蝸牛(かたつむり)枝に這ひ、神、そらに知ろしめす。すべて世は事もなし!!!!!」
女将:「そ・・・・・それは・・・・赤毛のアンの最終話でアンが引用したロバート・ブラウニングの<春の朝>の詩!!!?・・・・全て問題は無いと言うコトなの!!!?」
オレ:「そう・・・・すべて世は事もなあああああし!!!!よし!!!今から帰って原稿を描くぞ!!!」
女将:「ええ!!期待してるわ!!!で、今度の作品のタイトルは!!!?」
オレ:「<マッスィーン真神ααα(まがみトリプルアルファ)学園地獄変>アンドロイド・ヒーローが活躍するギャグ漫画だ!!!」
女将:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
オレ:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
女将:「・・・・・・・・・・が・・・・・頑張って・・・・・・・」
2人:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
オレ:「・・・・・・・・・女将・・・・・ファジーネーブル一杯くれ・・・・」
女将:「・・・・・・それ呑んだら帰りなさいよ・・・・・・・・」
オレ:「・・・・・・・・・・分かったよ・・・・・・・・」