小説<69>


この小説の映画版は見たってのは前に書いたんだけど、小説の方も負けないくらいおもしろかった。
って言うか小説の方が好きだわ。私。
映画と違ったユニークさが溢れていて。(ユニークって言葉一生使わないと思ったけど、こう言うトキに使うんだな。たぶん)
特に村上龍本人であろう主人公*1<矢崎剣介>の行動パターンのバカバカしさや下らなさが、いちいちたまらない。
で、本とか映画の楽しみ方の1つに<登場人物に共感する>って言う見方があるワケなんだが、この主人公に共感したのはこの<下らなさ>だ。
私前々から
「下らないコトが大好きだ!!」
って言ってる人間だから、この主人公に共感できたのには時間はかからなかった。
とにかくこいつの言うコトは出鱈目ばかりで、あらゆるトラブルもこの出鱈目で煙に巻こうとする。
でもこの主人公<剣介>は進学高校の理系クラスとオツムも達者なので、言う出鱈目も中々冴えてておもしろい。
例えば<剣介>の友人<アダマ>と言う男に<アルチェール・ランボー>について話すトコなどはとても笑えた。

剣介:「詩はほんとは好かん、そいでもランボーだけは別やけんね、ランボーは、今、常識やけんね」
アマダ:「常識?」
剣介:「ランボーゴダールに影響を与えとるとさ、知らんとか?」
アマダ:「あ、ゴダールは知っとる、世界史で習うた」
剣介:「世界史?」
アマダ:「インドの詩人やろ?」
剣介:「そいつは、タゴールやっか、ゴダールは映画監督たい」
僕はアダマにゴダールについて約十分間講義をした。
ヌーベル・ヴァーグの旗手で革命的な映画を次々に作っていること、「勝手にしやがれ」のラストシーンの見事さ、「男と女のいる舗道」における不条理な死、「ウィークエンド」の破壊的なカット割りについて話した。
<当然>、ゴダールの映画は一本も観ていなかった。

この<ゴダールの映画は一本も観ていなかった>って言う頭に<当然>って付いてるあたりがたまらない。
こいつはそんな出鱈目を、<処世術>程度に散りばめていく。
<女と一発ヤリたい>と言う一念でそう言うインテリぶったコトを言ったりするのだ。
そう言ってのけるあたりに、作者のアイロニーとかがうかがえて楽しい、でもそのアイロニーが嫌味にならないのは、こいつが<童貞>だからだ。(また童貞か?)
<童貞>って言うモノは、何をやっても嫌味にならない。
それは何をするにも<一生懸命>だからだと私は思うのだ。
<一生懸命な童貞>にはなんらかのパワーがある。
例えば<童貞の詐欺師>に引っかかっても何か許せそうな気さえする。(しない?)
それはたぶん<何かを得たいパワー>がそうさせたのだな?と思うからかもしれない。
そしてその詐欺師が、<17歳の童貞>なら尚更ガンバレ!と思ってしまうのだ。(剣介も17歳と言う設定)
そんな<童貞の何かを得たいパワー>が<ヒロイン>に向けられるとグっとくる。
<剣介>もやはり<ヒロインを得たい>と言うパワーを止めるコトができない少年なのだ。
その子の為に<学校をバリケード封鎖>したり、<フェスティバル>を計画したりと右往左往する。
まあこのあたりは<輝かしい青春>のパターンなので、素直に楽しく読んだんだが、私が特にこの<剣介>に共感したのは、<小難しい思想なんて下らない>と思っているトコだ。
剣介にとっては全共闘運動も、マルクス主義も、60年安保の教訓も、ナチズムも人に処世術として話したりするが、本当は良く解かっていないし知ったこっちゃない。
<だいたいこの平和な日本に、偉そうなコト>など不要だと言ってるように思えた。
実際口ばっかりで何も出来ない奴が多いんだから、テキトーに口裏合わせて偉そうなコト言っとけ、みたいな。
剣介にとって大事なのは<自分がいかに楽しい人生を送れるか?>と言う一点のみだ。それ以外に何がある?と言う発想。
中々そう思えないモンなんだが、とても大好きな考え方だ。
そう言う主人公がドタバタと駆けずり回るお話です。
で、結局そのヒロインとはどうなったかと言うと、それは読んでおくれやす。
どう?
読みたくなった?
え?
ならないって!!?
お前のたどたどしい感想じゃオレの琴線は触れねぇよって!!!?
それは仕方ない・・・・。
じゃあこの小説の1番グッときた一説書いて終わろうじゃねぇか!!!

それは剣介達がヒロインの気を引きたいと言うのと、つまらない教師達をギャフンと言わせるだけのタメに、思想家を装い学校をバリケード封鎖したのだが、結局犯人が剣介達だとバレて、警察沙汰になり、クラスメイトの数人に冷たい目を浴びせられたトキの剣介のモノローグから。

楽しんでいる奴が勝ちなのだ。
退学にびびっていても、元気に、笑いながら、バリ封がいかに楽しかったかと話してやれば、一般生徒は安心する。
本当は誰だってやりたいのだ。
だが、それも、半数である。
残りは、敵意を増幅させたはずだ。
僕が泣きながら許しを乞えばいいと思っている奴らだ。
(以下割愛)
たとえ退学になってもオレはお前らにだけは負けないぞ、
一生、オレの楽しい笑い声を聞かせてやる・・・・・。

たぶんこの
「一生、オレの楽しい笑い声をきかせてやる・・・・・」
の件まで読んでグッとこない人は、この先を読んでてもずっとグッとこないです。
あー、おもろかった。
以上。
御礼:チビ氏へ。今度家行くトキ本返します。

*1:本人があとがきで書いてたから間違いはない。