佐藤陽一(24)

fujigelge2011-07-23


今日も私が描いた漫画の話です。







これは賞を貰ってから数日が経って講談社へ挨拶しに行った時、ヤンマガ編集部に宇宙刑事ギャリアンの別の話を持って行きまして、これを読んだヤンマガの副編集長が気に入ってくれて、
「藤さんが描く騙される人っての1回読んでみたいです」
と言われ、いろんなアイデアをもらい、講談社を後にして担当編集さんに取ってもらったビジネスホテルに着いて自分なりに騙される人というのを考えながらビジネスホテルの部屋ですぐに描いたネーム(絵コンテみたいなの)が佐藤陽一(24)でした。
副編集長のアドバイスがおもしろかったので没もほとんど出ずにすぐOKが出ました。
その副編集長は後に少年マガジンの編集長になるんですが、やっぱり出来る人は違うなと思いました。
で、内容の方は佐藤陽一という何の特技も才能もない、この世の最大公約数のような普通の男が理不尽な日常生活と戦うというお話です。
要はギャリアンをもっと小規模な話にして、もっと冴えない野郎を描いたんですよ。
佐藤陽一は24歳の無趣味で器が小さい小心者と言う設定なんで、唯一の楽しみであるエロに対してはどんな小さなエロでも脇目も振らずに頑張ります。
冴えない野郎が共感出来るって言えばやっぱりエロですよ。
他人の好奇の目に晒されながらギャルゲーのUFOキャッチャーの景品に1万円近く突っ込んだり、駅の階段を駆けあがる女子高生のパンツを見るタメに<電車に乗り遅れそうだから急いでる人>を装い風邪をひいてるにも関わらず必死で足の速い女子高生の後ろをピッタリとマークしたり、自分のボンクラな欲望に振り回されるんですよ。


同級生だった人間がどんどん自分を追い越して不安になる陽一



で、佐藤陽一は私の作品の中で1番掲載回数が多く、知らない男性から
佐藤陽一は僕の人生そのものです」
というようなコトを書かれた初めてのファンレターというモノを貰ったりしたんですが、ネタを出すのはかなりキツかったですね。
このお話の肝となるのが<冴えない男が読んで共感出来る>という部分で、必然的に内容があるあるネタになり、それに加え主な登場人物は主人公1人だけで、こいつのゲスな主観のみで話が進むので後半ノイローゼになるかもしれんと思うほどネタに苦しみましたねぇ。
なんせ何の取り柄もない男が物語りの主人公になってるんで、話を引っ張る力がまったくないんですよ。
そんな中、佐藤陽一の話の中で、佐藤陽一が喫茶店に入り、隣に凄く美人な女と冴えない男のカップルがいて、女の酷い高飛車な態度に冴えない男の方が卑屈になりながらも別れたくないというやり取りに聞き耳を立ててた陽一は
「この男は金×女=元を取るという公式に基づいているんだ!1回ほどのセックスで十数万かけた女と別れられるはずがない!!」
というカップルの背景を独自のゲスな分析を交えて考察するネタをやっとのコトで考えて、それが雑誌に載ったんですが、その話を読んだ当時付き合ってた彼女に<藤くんがこんなゲスなコト考えてる人とは思わなかった>と言われ号泣される事件が発生。
佐藤陽一は架空の人物であるというのを説得するのに随分時間がかかりました。
担当の編集さんと打ち合わせしてても編集さんまで
「オレも藤さんみたいにキャバクラの神様が見えるようになりましたよ」
と、漫画のネタで描いたコトがさも私の体験談のように話されたりして、佐藤陽一(24)という作品が私の日記漫画のように思われて困ったりしました。
こっちは必死でネタ捻り出したのに・・・。
でも、それくらい<こんな人いてそう>というキャラクターを作れたので、まあ良かったです。
こう書くと私が冴えない男じゃないみたいですが、立派な冴えない男であるコトは間違いないです。
冴えない男の権化です。
そんなワケで佐藤陽一(24)の話でした。
以上。


追記:そうそう、当時電車乗ってる時に私の隣で佐藤陽一読んでる男の人が偶然いて、その人声出して笑ったんですよ!
あの時はそいつを抱きしめて、ケツの穴差し出したいくらい嬉しかったなあ。