fujigelge2013-04-27


ベッドで寝ている女の子:「おばあちゃん、今日はどんなお話してくれるの?」

ユリ椅子で編み物をしているおばあちゃん:「そうだねぇ・・・じゃあ今日は鳥山明という漫画家の話ドクタースランプをしようかねぇ?」

ベッドで寝ている女の子:「わあ!!聞かせて聞かせて!!」




鳥山明
言わずと知れた日本が誇る大漫画家です。
ドラゴンボールが17年ぶりに劇場公開作品として復活するなど未だ人気は衰えるコトを知りません。
唐突で早速ですが、私は鳥山明のファンです。
どれくらいファンだったかと言うと、子供の頃、歯医者の待合室で少年ジャンプを手に取り、ドクタースランプのスッパマン登場の回で鳥山明の漫画を初めて読み
「この人スゲー絵が上手い!!カッコイイ!!おもしろい!!」
と衝撃を受け、それ以来学校のみんながコロコロコミックやボンボンを読んでいた中ただ一人ドクタースランプ目当てで少年ジャンプをずっと読んでいたほどのファンです。
しかし、少年ジャンプはその当時<中学生や高校生が読む雑誌>というのが世の中の認識でした。
なぜかと言うと、今と違って当時の少年誌はエロ描写と暴力描写が半端なかったからです。
当時少年ジャンプで連載していたブラックエンジェルズという漫画で、女性アイドルが悪徳芸能事務所の社長にシャブ漬けにされて殺されるという話がありましたが、今じゃこんな描写完全にアウトです。
子供が手に取るにはあまりにもハードルが高かったので、14歳離れた姉が買って来る少年ジャンプを借りて毎週読んでました。
そして自分の意思で初めて買った漫画の単行本が当時最新巻だったドクタースランプ4巻でした。
そんなにしょっちゅう漫画本を買えるモンでもなかったので、その4巻をボロボロになるまで何度も読みましたね。
で、姉は裁縫が得意だったんで、アラレちゃんが作中で良く被ってた羽の付いた帽子を作ってくれと頼んで作ってもらいました。
姉もドクタースランプを読んでいたんでその再現度は完璧で、良くその帽子を被ってましたが、それを見た友人はドクタースランプを知らなかったんで
「それ何の帽子?どこで売ってんの?」
と聞かれました。
これが私が初めて体験したコスプレです。
そしてドクタースランプはその後大人気漫画になり、アニメ化もされるようになったんですが、ここで私はアニメの方に何か強烈な違和感を感じるようになっていたんです。
それは、アニメを作ってる人間が鳥山明と言う人間をまったく理解していないという点です。
とは言うものの、当時の私は漫画原作者はアニメも同時にやっているモンだと思ってたので、実際は<アニメをやってる時の鳥山明は絵も下手でおもんない>という感覚でした。
<アニメはたくさんのアニメ製作者の人たちが作っている>というのを知らなかったんで、小学生の私は
鳥山明はアニメをやってる時はなんでおもしろくないんだ?」
という疑問がずっとあったんですが、それを理解できたのは中学になってからです。
そんな中、小学生の頃ずっと気持ち悪く思ってた、<鳥山明の漫画と別の人が作ったアニメは一体何が違うのか?>という違和感を20歳を越え大人になった脳で考えた時、まず思ったのは鳥山明のドライな世界観をまったく理解していないというところでした。
ドクタースランプドラゴンボールなどで特に印象に残るポイントは、<動物が喋る>という部分です。
ここを<ほのぼの>と捉えるのか、<悪ふざけ>と捉えるのでは全然違うモノになります。
当然これは鳥山明の悪ふざけです。
ドクタースランプの漫画の中で、別の作品であるウルトラマンがさも自分が作ったキャラのようにレギュラー出演し、ガンダムのザクやらスターウォーズのストーム・トルーパーやスピーダーバイクなどありとあらゆる自分の好きなモノを作中で登場させてきました*1
ドクタースランプのキャラ皿田きのこの母親は漫画版では<不二家のペコちゃん>でお父さんが<ポコちゃん>だったところを、アニメの場合は不二家の版権などの理由でこのキャラクターを出せずこの類の悪ふざけは別のキャラに描き直されたりして完全再現はできないところもありましたが、それを踏まえても解せないところがしばしばありました。
ではこの悪ふざけとは一体どういう事かを具体的に言うと、それは鳥山明の中にある<照れ><ドライさ>です。
<動物が喋る>や<擬人化した動物が出てくる>という部分をドクタースランプドラゴンボールを例に挙げて説明すると、熱血や燃えるシーンなどの真剣なシーンになると特に鳥山明の中でこの照れが発動します。
ドクタースランプの中で、悪い奴と言うのが度々登場しアラレちゃんが戦わないといけない場面(作中でもこの戦う部分は「遊ぶ」と表現にしたりする)になりますが、その悪者の親玉の部下にはだいたい犬や熊や虎などの擬人化したキャラが数名出てきます。
あと、ドラゴンボールで登場した悪の組織レッドリボン軍の部下数名にもやはり犬やワニや虎などの擬人化したモブキャラが登場します。
これは、鳥山明が真剣なシーンを書くのが大嫌いだからです。
人間の中に犬がいる悪の組織。
劇中これについて何の説明もありません。
<犬や熊や虎の格好をした種族がこの世界にいる>という設定について何の説明もないんです。
この設定が後々伏線になるコトもありません。
これはただ単に照れであり悪ふざけなんです。
これをやってる時、おそらく鳥山明は読者のコトはどうでもいいんです。
自分がこんな熱いシーンを描いてるコトがカッコ悪くて恥ずかしいんです。
ただそのタメのキャラなんです。
これが鳥山明の持っている悪ふざけの1部分です。
「でもドラゴンボールは真剣なバトルシーンが結構あるじゃないか」
と言われればそうですが、これは<鳥山明という漫画家ドラゴンボール編>でいろいろ書きたいと思います。(やらないかもしれんが)
これをアニメ制作者がほのぼのとして捉えたのが、アニメドクタースランプ<ほのぼのしたペンギン村でのアラレちゃんと楽しい仲間たち>という気持ち悪い部分になるんです。
原作のドクタースランプのペンギン村にいるほのぼのした人たちは<バカ>という扱いになってます。
この村で一番ちゃんとしてる人間は<村一番の不良の木緑あかねのみ>です。
天才バカボンで言うところのバカボンのママがアカネちゃんです。
バカボンのママは常識のある普通の人と言うキャラですが、ドクタースランプでは唯一ちゃんとしてる人が不良なんですよ。
それ以外ののほほんとしたキャラは全員ボケです。
バカボンではキ○ガイなのは人間のみでしたが、ペンギン村では太陽にも月にも顔があってしかも喋ります。
いくらギャグマンガだからと言ってもある程度のリアリティラインというのを設けるのが普通なんですが、こういった動物以外のモノも喋るキ○ガイの妄想のようなくだらない世界でキャラクター(特に木緑あかね)は正気をギリギリに保って生きています。
そもそもこの漫画の主人公がスケベでヘビースモーカーで見た目が汚い則巻千兵衛って時点でだいぶほのぼのとはかけ離れてます。
あと、一見ほのぼのしたペンギン村にやたらと登場する軍事兵器。
ジェット機や戦車、銃もほぼ実際にあるモノがリアルに描かれてて、コレが鳥山明が本当に描きたいモノであり、ほのぼのした村にこう言う殺伐とするアイテムが登場するのもドクタースランプのおもしろい部分です。
天才バカボンの<目ん玉つながりのお巡りさん>と同系列のギャグです。
天才バカボンのお巡りさんはほのぼのとした世界の中で拳銃をやたらとぶっぱなすという人です。
それは劇中で国家権力の象徴としてピストルをやたら撃つ危ない人と言う笑いなんですが、ドクタースランプではいろんな人が軍隊でもないのにジェット機や戦車や銃を当たり前のように使用します。
しかしただジェット機や戦車や銃が登場するだけでなく、これらが全てリアルに描き込まれてるトコがそれまでのギャグマンガにほとんどなかったんです。
例えば銃に関して言うと、漫画でブローバックして薬莢が飛び出る銃をちゃんと描く人は当時あんまりいませんでした。
あんまりというか、それまでいたんですかね?
最近の日本の映画やドラマですら銃撃シーンで薬莢すら飛ばないリアリティの欠片もない銃を撃ってる中で、昔のギャグマンガなのにちゃんとブローバックしてる描写もあるんですよ。
そもそもこの銃の動作の一つであるブローバックっていう用語もこのドクタースランプで知ったくらいです。
何もかもがリアリティのないほのぼのしたペンギン村で、銃器だけはちゃんとリアルに描かれてます。
そういうのも絵的に過激でおもしろかったです。
それは鳥山明がディープなミリタリーオタクというのが相当大きく、扉絵なども軍事関係の乗り物にアラレちゃんや千兵衛が乗ってる絵も多かったですし、扉絵でいうと一番ビックリしたのが高校くらいにドクタースランプを読み返して気づいたコトなんですが、マーティン・スコセッシ監督のタクシードライバーのパロ絵があったとこです。
千兵衛がタクシードライバーロバート・デ・ニーロの格好で銃を構えてる絵があって、
「え!?鳥山明タクシードライバーとかも好きなの!!?」
って思いました。
タクシードライバーという映画が好きな人は大抵心にドロドロしたモノを持ってる人です。
そういう悪ふざけの部分をまったく無視したアニメのカワイイアラレちゃんや、メルヘンでドリーミーな話や、お涙頂戴のようなオリジナル脚本の回を私は憎悪さえしてました。
ただ、原作のドクタースランプでもウェッティな話は数話ありました。
それは密猟者が熊を銃で殺し、それを千兵衛がサイボーグにして山へ返す話と、ペンギン村に流れこんで来たペンギンとアザラシが合わさったような動物ペンザラシをオーサム地方という南極みたいなトコへ返す話と、村の人たちから恐れられている虎のおじさんが傷ついた文鳥を世話する話など。
鳥山明のウェッティな部分はどれも動物絡みです。
鳥山明は兎に角動物が大好きです。
鳥山明は無垢、ピュア、イノセントというのが大好きです。
なのでアラレちゃんも無垢なアンドロイドで、悟空も無垢で猿の宇宙人なんです。
鳥山明の中で無垢こそが最強で尊い存在なんです。
それに対し、女性キャラは夢のない俗物として描かれます。
木緑あかね、ブルマ、チチはお金が大好きで利己的で夢やロマンはクソ喰らえというゲゲゲの鬼太郎ねずみ男とほぼ同じような立ち位置にいます。
鳥山明にとっての女性像は性的な魅力を持ったねずみ男なのです。
見た目がカワイイくて性格ものんびりしてる所謂萌えキャラはドクタースランプで登場したピースケのガールフレンドすずめちゃんと、「駆けずり回る青春の巻」でゲストキャラとして登場した木緑あかねそっくりのお姫様ナナバ姫だけじゃないでしょうか?
あとの女性キャラはほとんど性格になにかしらの欠陥があります。
後に千兵衛と結婚した山吹みどり先生はおしとやかじゃないかと言われそうですが、千兵衛と他の女が一緒だったのを浮気と早とちりでしたみどりさんは、それを見た3コマ目で44オートマグという強力な銃を出し千兵衛の体にマグナム弾を6発撃ち込み蜂の巣にしたくらい恐ろしい人です。(当然ギャグマンガなので体に穴が空いた程度です。本来マグナム弾が当たれば人間の体は跡形もなくぶっ飛びます)
鳥山明の作品を読んでいるとこの人は人間がそんなに好きじゃないというのが良くわかります。
そういうドライでシニカルでお涙頂戴が誰よりも大嫌いな鳥山明が私は大好きなのです。
バイちゃ!

*1:こういった他の作品のキャラをやたらと出す悪ふざけをし出したのは、当時少年ジャンプでカルト的に人気だった江口寿史の漫画「すすめ!!パイレーツ」の影響だというのを何かで読んだ記憶があります。(もしかしたら間違いかもしれません)