fujigelge2005-06-11

どうもこんばんは。
猫です。
よし。
今回は語尾にニャって打たなかったぞ。
毎回同じ過ちを繰り返さないのが小生の良いトコだ。
今日もまたあの馬鹿が面倒だと言うので、代打を頼まれてしまった。
まあ、ここ最近の出来事見てりゃその気持ちも分かるけどな。
なんにもおもしろいコトなくてまったくやる気ゼロじゃねぇか。
仕方ないんで、小生に起こったここ最近の面倒に巻き込まれた話でもするか。
興味なかったらさっさと寝ろ。
愚かスケベな人間ども。

サンダルと黒猫

小生はこの土地に来て、もう数週間も気ままに過ごしていた。
どうきままに過ごしたかと言うと、昨日の事など忘れるくらい気ままに過ごしていた。
これは小生だけじゃなく、そもそも猫とはそう言うものだ。
人間と違って、昨日や明日などと言う発想は頭から抜け落ちている。
と、言っても別に小生等が馬鹿とかそう言う事ではなく、そんな不確かな事を考えるのが無駄なだけと言う事を知っているだけだ。
複雑な情報は出来るだけ一本化してシンプルに考える。
頭にあるのは今日の飯の事と、溢れる好奇心のたった二点だけだ。
だいたいこの二つさえあれば誰でも気ままに生きてられる。
しかし、この溢れる好奇心が大変な目に遭う種と言うのも解ってはいるんだが、こればっかりはどうしようもない。
例えば、小動物を追っかけてて車に撥ねられたりな。
過ぎた好奇心は時に命に関わるんだが、我々猫はコレがなくなっちゃお終いのような本能みたいなモノもある。
小生もこの溢れる好奇心のお陰で、気ままな生活が一転して面倒なトラブルに変わってしまった。
あれは多分一週間前の話だ。
小生は相変わらず縄張りの中で気ままにブラブラ歩いていた。
そこそこ縄張りも確保したんで、本当にその時は良い気分だったのだ。
今日も一日何事もなく、ぼんやりと散歩。
ひんやりしたとこで昼寝。
そして、あの馬鹿が前の日買ってきた小生の何よりの楽しみのカルカン。
パーフェクトだ。
カルカンはあの馬鹿がたまに買ってくる小生の一番のご馳走の事だ。
それを食う事が猫生*1のうちで一番の楽しみと言っていい。
だからその時は本当に気分が良かったのだ。
それは勿論あんな事さえなければの話だが。
小生はいつものように縄張り付近でウロウロ歩いていると、あの靴屋の前に差し掛かった。
あの靴屋と言うのは、小生の縄張り付近にあるボロッちい靴屋で、店の前の台に置いてある、誰が買うんだ?って言うぐらい汚ったねぇサンダルに、堂々と2500円って言う外道な値段で売っている馬鹿な靴屋の事だ。
いつもならその靴屋の前は小生は素通りするはずのエリアだったんだが、その日はカルカンの所為もあって、とても気分がハイだったので、そのアコギな靴屋のサンダルをギッてやろうと思ったのだ。
ギると言っても誰もあんな汚ったねぇサンダルを買うワケねぇし、小生がギッても誰も恨みを買われる筋合いはないと思ったからだ。
まあ、ちょっとしたイタズラだな。
小生は奥にいる店主の目をピリピリ警戒させながらその汚ったねぇサンダルをギる瞬間を虎視眈々と狙っていた。
気分も絶好調。
このイタズラは100%成功と言う根拠のない自信が小生を包んでいた。
すると、そこへ冴えない大学生風の男が、その靴屋の前の汚ねぇサンダルの前に足を止め、マジマジそれを見だした。
彼是5分ぐらい見てたと思う。
小生の折角高揚した気分がどんどん削がれていく。
「どけ!!・・・早くどけよ馬鹿!!」
と、小生もその時流石にイライラした。
で、あんまりその男がどかないんで、強行手段を取ろうと決意する。
それは、その冴えない大学生風の男の目の前でサンダルをギれば、店主もそいつもひっくり返って慌てるだろうと思ったからだ。
身体をくの字に曲げ、スタンバッていると、なんとその男はそのサンダルを持って店の中へと入って行った。
一瞬こっちが狼狽してしまった。
あんなサンダルを欲しがる変わり者がいたとは驚きだ。
そいつはそそくさと会計を済ませ、そのサンダルを持って店から出て行った。
小生はこの時とても気分を害した。
小生のこのハイな気持ちをオジャンにしたこいつになんか腹が立ってきた。
この気持ちを一体どこにぶつければいいんだ?
答えは簡単だ。
あんな汚ったねぇサンダルを買うような冴えない馬鹿男をからかってやるしかない!
小生は男の後をつけた。
こいつの家まで行って、ほんのちょっと食いモンでもせしめれば、小生の気が済むってもんだ。
しかし、ふと後ろを振り返ると、小生の後ろから犬が張り付いていやがる。
前に男、後ろに小生、そしてその後ろに犬。
しかもその犬は何かを企んでいるような雰囲気だった。
そして、その男が数百メートルほど歩いたところで、小生の予感は的中した。
なんと後ろにつけてた犬が、前の男のサンダルを咥えてギッたのだ。
こっちが先に靴屋でやろうとした事を、こともあろうかその馬鹿ッツラの犬ッコロがやっちまいやがったのだ。
犬は全速力で走って逃げたが、小生もそんな事されたんじゃあ黙っちゃいられない。
犬ッコロの後を必死で追いかけた。
少し振り向くと冴えない男も必死で追いかけていたが、遥か彼方*2
そんでその犬ッコロ追いかけてたどり着いたのが、さっき冴えない男がサンダル買った靴屋の裏口だってんだから小生も驚いたね。
なるほど。
それであのサンダルはあんなに汚ったねぇのかと思った。
要は店主があの犬ッコロ調教して、客からパクッたサンダルを堂々とまた売ってたワケだ。
何やらここにはドス黒い陰謀があったみたいだ。
だったら尚更小生はあのサンダルをギるしかない。
ギられても当然だろう。
元々アレは無くなっても誰も文句の言えない物なんだからな。
そんでその犬ッコロなんだが、裏手にある薄暗い小さな倉庫みたいなところに入って行って、咥えていたサンダルを置いてそのまま犬小屋に帰って行きやがった。
どうやら倉庫のドアは開きっぱなしのようだ。
小生は軽くその倉庫に侵入し、サンダルを咥えて、このままトンズラしてミッション終了と言う按排だ。
いや、按排だった。
サンダルを咥え、倉庫を出た時、なにやら薄気味悪い視線を感じた。
小生がふとその薄気味悪い視線を感じる方向に目をやると、塀の上から小生をジッと見てる奴がいた。
黒猫だ!
この前見た、いけ好かない黒猫が塀の上から小生をジッと見ていたのだ!
お互い数分何も言わず膠着状態。
しかし、その間小生は一つ分かった事があった。
この黒猫から発せられている匂いは、ここの縄張りの匂いと同じだと言う事だ。
そう、ここの靴屋の中はこいつの縄張りだったのだ。
あまりのハイな気分で匂いに気づかなかったようだ。
しまったと思いつつも、ここで引き下がっちゃあこいつに一生舐められる。
と言うか、ここで会ったが百年目と言うとこか?
小生はこいつから発せられている匂いも、黒猫と言うモノも大嫌いなんでちょうどいい。
それにいつかシメてやろうと思っていた相手だ。
小生はサンダルを口から放し、ゆっくりと爪を立てた。
最初は気分爽快な日だったが、蓋を開けりゃ面倒な事が多い日だ。
だが、小生にとっては、何もかもがうまくいくと言う、追い風の気分の日でもある。
なんだったらこいつの縄張りもいただいてやるつもりでいた。
「五秒だ。五秒でなんとかしてやるぜ!」
そう思い、ゆっくりと立てた爪もガリガリと出始め、準備はOKだ。
しかし、黒猫の方はまだ冷たい目で様子を見ている。
と言うか完全にこっちを見下している。
それは何も高い塀の上にいるからと言う訳ではなく、気持ち的にこいつは明らかに小生を馬鹿にしているのだ。
頭にきたが、ここで奴に素直に飛び掛れば小生の負けである。
対等になるには、まずこいつのいる塀の上に登らなければ話しにならない。
こう言う時は待たなければいけない。
こっちが塀の上に登るチャンスがあるのか、黒猫が飛び掛ってくるのかを見極めなければ殺られる。
殺られるとは穏やかではないが、こいつはそう言う奴だと一目見て判った事だ。
そうこう考えていると、黒猫は小生に向かって上って来いと言う顔をした。
初めは狙い撃ちの為の嘘だと思ったが、黒猫の爪はまだ伸びていないので本当だと思った。
だがそう言う、奴の余裕のスタンスがより一層頭にきた。
小生はこいつの言う通りに塀の上へと駆け上った。
別にこいつにビビって言う通りにしたんじゃない、小生は最初から塀に上ると言うチャンスを伺っていたからだ。
これでやっと白黒をハッキリさせられるってもんだ。
白黒と言っても黒いのは最初から奴の方なんだがな。
奴に黒星を付けるのは無論小生だ。
小生は毛を逆立て、その後、一気に黒猫に飛び掛った。
狙いは喉笛一点。
いつもは脅し程度だが、いけ好かなねぇお前には初っ端から本気だぜ!
だが、小生が爪を黒猫の喉笛目掛けて襲い掛かったその瞬間、奴はいつの間にか立てていた爪を、逆に小生の喉笛にカウンターぎみにアッパーの形で突き立てた。
後で考えても、小生は奴が爪を出しているところは一度も見ていなかった。
一体奴はいつ爪を出したんだろうか?
小生はその黒猫のアッパーを右肩で咄嗟にガードした。
その反動で小生は塀から真っ逆さまに落ちた。
まあ落ちたと言っても小生は猫なんで綺麗に着地したんだがな。
それから小生は体勢を整えて、もう一度塀に上がろうとしたその時、黒猫はいつの間にか出した鋭い爪を振り上げ、塀の上から小生に目掛けて飛び掛ってきた。
あまりに俊敏で無駄のない動きに戸惑ったが、一瞬紙一重でその攻撃を飛び避けた。
ここは一旦奴が次にどんな攻撃をしでかすか、もう一度体勢を整えて様子を伺おうとしたところ、その黒猫はとても小さくこう言ったんだ。
「チッ・・・・2秒過ぎたか・・・」
何から何まで頭にくる野郎だ。
奴はこともあろうに、小生を二秒で倒すつもりだったらしい。
まったく舐められたもんだ。
で、その時小生はふと思い出した事があった。
「そう言やあ今日はカルカンの日じゃねぇか」
そう思ったらこんな喧嘩が急に馬鹿らしくなってきた。
「もうそろそろ藤の馬鹿が、小生の帰りを待ってカルカン用意してるに違いない。こんな奴の相手はいつでも出来るし、今日はこのぐらいにしといてやるか」
そう思った小生は黒猫に向かって一直線に走り出し、フェイントを右に入れ、置いてあった水の入ったバケツを奴に目掛けて蹴り飛ばしてやった。
その勢いで塀に駆け上り、少し振り返ってずぶ濡れになった奴を塀の上から見下ろし、(本当は少ししか濡れてなかったが・・・)こう言ってやった。
「お前は猫のクセに水が好きなのか?オレは水よりミルクの方が好きなの、お前知ってた?」
まあ本当はカルカンの方が好きなんだがな。
そう言うと小生は一直線に藤の家に帰っていった。
あの時の帰り際の黒猫の馬鹿ッツラを見せてやりたかったね。
何が二秒だ。
小生がもうちょっとガンバりゃあ、お前は五秒の命だったクセに。
カルカンに救われたな。
案の定小生が藤ん家に着いたらカルカンのお出迎え。
いろいろあったが、小生はこの為に生きてるんだよ。
満足満足。
で、小生がカルカン食ってる最中藤が小生にこう言ってきた。
「あれ?チャッピー右肩怪我してるやんけ。どないしたんや?」
って。
たいした事ないから黙ってカルカン食ってると、藤の野郎がこうのたまいやがった。
「まあ唾つけたら治るやろ」
たいした怪我じゃないが、ちょっと痛いんだよ馬鹿が。
お前もいつか二秒でシメてやる。
まあ長くなったがこんなもんだ。
まったくあん時は長い一日だったよ。
面倒な事は嫌いなんだが、猫なもんで好奇心は抑えられないし大変だよ。
今度また機会でもあったら代打で出るかもしれないし、出ないかもしれないだ。
でももう出ないな。
こんな面倒な事はまっぴらだ。
じゃあまたな。
愚かスケベな人間ども。

*1:お前等の言う人生

*2:そんな名前の漫才師がいたな。